平成23年度 一条高校「課題研究」支援事業

この課題研究は、奈良市立一条高等学校数理科学科の二年生に対して行われる教育実践です。本プロジェクト教員の指導の下、各テーマごとに分かれて実施されました。

高校生は実験やシミュレーション、解析やフィールド調査など大学で展開されている研究を体験し、各班がそれぞれ取り組んだ活動をパワーポイントにまとめました。

1月27日(金)に「平成23年度課題研究発表会」を実施しました。発表会はテレビ会議室システムを利用して本学の地学実験室と一条高校を二元中継して行なわれました。発表会には、一条高校二年生、高校の先生方、本学担当教員、大学院生、教育研究員が参加し、積極的な質疑が行われました。

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食の新技術

担当者:常田琢准教授

液体窒素冷凍など、家庭ではできない調理法を通じて水の相転移について学びました。水を冷凍庫で冷やしても、すぐには凍りません。はじめに氷の小さな粒(結晶核)が生まれ、次第にそれが成長して全体が固化します。しかし、結晶核はなかなか生じません。チリなどの不純物が水分子を集まりやすくしてくれることでわずかに生じるだけなのです。その結果的できる氷は、少数の大きく育った結晶からなります。ところが、液体窒素温度では、不純物がなくても氷の核生成が行われるため、水は一瞬で凍ってしまいます。その氷は多数の小さな結晶からなります。そこで、実際に液体窒素でアイスクリームを作り、冷凍庫で凍らせたものと食べ比べてみました。氷の粒径が小さいことからくる口解けの良さは明らかでした。

       

紫外線が生物に及ぼす影響

担当者:森本弘一教授

紫外線が生物へ及ぼす影響について調べました。太陽紫外線は、波長の長さによりUVA、UVB、UVCと分けられています。これらのなかでも、UVBとUVCの生物影響が調べられています。 UVCは、地上には現在届いていませんが、原始地球では、オゾン層がないため、届いていました。UVCを人工的に照射する殺菌灯は、研究室や病院などで使われています。今回調べた生物は、バナナ、大腸菌です。いずれもコントロール群と比べて紫外線を照射した群に影響が見られました。バナナは褐色に変化し、大腸菌も死滅しました。

       

キノコの多様性

担当者:菊地淳一准教授

動物に最も近縁な生物群であり、わりと身近な生物であるキノコの仲間については、その生物学的特徴や名前、見分け方等についての学習機会が ほとんどありません。初夏と秋のキノコを春日大社や春日山で観察し、キノコの同定を行い、外見の特徴とキノコの分類の関係について調べました。短い時間でしたが、50種以上のキノコを見つけることができ、うち一つは珍しい腹菌類の仲間のようです(塩基配列による同定結果)。またシイタケの菌床栽培も行い、キノコの発生過程についての観察も行いました。

       

電気や電子の働きを見てみよう(電子体温計の基礎を作る)

担当者:院生、森本弘一教授監修

電子体温計、電波受信機、ゲルマニウムラジオを作って、仕組みを感じる授業をしました。一回目は電子体温計の模型を作りました。ハンダごてで部品をつないで回路を作成して、水温を電圧で読み取ります。電圧値はコンピュータで処理して検量線を作成すると、自分の体温を求めることができます。この日は参加したみなさんが、自分の体温を求めることができました。二回目は電波受信機の「コヒーラー」を、電子ライターとアルミホイルを利用して作りました。電子ライターから電波を飛ばすとコヒーラーが受け取り、電子オルゴールが鳴りました。さらに受信機として「ゲルマニウムラジオ」を、ゲルマニウムダイオードと日用品を使って組み立てました。残念ながら本学は立地上、電波が弱くて声が判別できるほどの受信はできませんでした。(ちなみに電波状況の良いところでは、聞こえました。)

       

地球の大きさを測ろう−エラトステネスの方法の現代的応用−(その2)

担当者:和田穣隆准教授

地球は我々人間よりもはるかに大きく、それが球状であることを認識することさえとても大変なことです。しかし、2200年前のエジプトの学者エラトステネスは大地が球であると仮定してその一周の距離を推定しました。その方法はとても簡単で、ラクダの隊商の移動速度に基づいて推定された二地点間の距離と、各地点での夏至の日の太陽の高度から幾何学的に求められたものです。それと同じ原理を用いて、地球一周の距離を推定しました。用いた道具は「自分の足」と「メジャー」、そして「GPS」です。奈良教育大学内の二地点間の距離を自分の足やメジャーで測り、「GPS」で自分たちの地球上での位置(緯度・経度)を知りました。そして、得られた測定結果から実際の地球一周の距離との差異について考察しました。

       

超音波技術を応用した流れの計測 −沿岸域の流れの鉛直構造−

担当者:藤井智康准教授

海洋や湖での流れを計測する技術に、近年では超音波のドップラー効果を応用した計測機器(ADCP)が用いられるようになってきました。課題研究ではADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)の原理を理解し、実際に現地観測(2011年9月10日,新西宮ヨットーハーバー)を行い、データを取得することを目的として行いました。また、大阪湾では底層の貧酸素水塊の形成や貧酸素水塊の動きに伴う青潮(あおしお)の発生など様々な環境問題が生じています。このような沿岸域の水環境問題について考えるために、ADCPを用いた流向・流速の計測のみでなく、多項目水質計を用いて水質の鉛直分布を計測し、データ解析を行いました。

       

ランダムウォークと調和解析

担当者:河上哲教授

ランダムウォーク (Random Walk) は日本語では、乱歩または酔歩と訳されており、そこでの中心テーマは、「家を出た酔っ払いは果たして無事に家に帰れるか?また、帰れるとしたら、その確率は?」となっています。この問題を正多角形や正多面体の辺上で考察し、近年、数理科学の分野で著しい進展をみせている新しい概念であるハイパー群の観点から、いろいろな方法による具体的な計算などを通して、ランダムウォークとハイパー群について体感しました。

       

過冷却水を使って状態変化の潜熱について考察する

担当者:松村佳子特任教授

水の状態変化と潜熱について、小・中学校において学んだことのふり返りから始めた。中学校では「純粋な物質では、状態が変化している間は温度が変化しない」ことを学んだ。水は0℃以下では固体になってしまうのかどうかを試した。氷と塩を3:1の割合で混ぜると、−18℃ほどの低温が得られる。その中に水を入れた試験管を挿入し、水の温度を測定すると0℃以下になっても試験管の水は凍らずに温度が下がり続け過冷却水ができる。—7〜8℃まで水温が下がると、突然に試験管の水は凍り水温が0℃まで上昇することが観察された。融解熱に対応するエネルギーが発散されたためである。私達人間は、昔からこの原理を利用して蓄熱をしてきた。今では消費電力の平準化をはかるために、氷蓄熱(リキッドアイス)システムが開発されて、省エネ型空調システムが実用化されている。